僕が美術の道を志したのは、高校3年生の夏だった。
　それまで、まったく美術とは無縁の生活で、自分より周りが驚いていたくらいだ。
　昔から新しいモノよりも、古い建物やペイントされた建物や壁が好きで、何か自分の手で街を変える仕事をしたいと考えていた。
　一浪して、東京造形大絵画科にギリギリ補欠入学。1年の終わりに、運良く、渋谷PARCOの壁画の仕事が出来る事になった。仕事と言っても、最初の1年位はどれだけ働いても交通費くらいしか出なかった。でもそんな事はどうでもよかった。自分の手で、巨大な白い壁がペイントされていく事に興奮を感じていた。
　壁画の仕事が忙しくて、大学には4年生になるまでほとんど行けなかった。
　大学3年の終わりになると、技術力が大分上がったのが自分でもわかった。確かその頃、初めて海外に旅行に行き、制作意欲が異常にわいた。僕は絵画科の版表現クラスに属していたんだけど・・・もう朝から晩まで、刷って刷って刷りまくった。面白かった。造形大学の版表現クラスはとても自由だったのと、教授が本当に素晴らしかった。3年生まで仕事だバンドだで・・・ほとんど制作していなかった自分を温かく、そして厳しく見守ってくれた。
　直接的には関係ないようだけれど、版表現で学んだ事は、確実にその後の壁画制作の技術や創るプロセスに影響を与えてくれた。
　大学を出ると同時にカブトズファクトリーという壁画会社を立ち上げる。壁画って既存の壁に直接ペイントする訳で・・・自分の行為で空間が変わる事に面白味を感じていたんだ。技術には自信があったので、どこかに属し安売りするのは嫌だった。完全にゼロからのスタート。数年間はバイトをしながら、コツコツと壁画の仕事をこなしていく。その内、徐々に口コミや紹介で、仕事が定期的に来るようになり、ここ数年は結構面白い仕事も出来た。ふと気づくと自分は壁画のプロフェッショナルになっていたんだけど・・・。仕事として制作する以上、その表現には必ずラインを引かなければならない。それは時にとてもストレスになっていた。
　分かりやすい発想だけれど・・・。自分のお店を持てば自由に表現出来る！もう随分と前にそれは目標になった。昨年の11月。念願かない藤沢市鵠沼海岸駅前にカフェを創った。小さいお店だけど、店内は壁画が描かれている。今後も消してはまた増やしていくつもりだ。お店の運営は想像以上に大変で・・・壁画制作をする時間は中々ないけど・・・徐々に進める。自分としては、白いキャンパスのように。一つの作品を創る様に、この「カブトスカフェ」を成長させていきたいと考えている。
　今自分は、ほぼ毎日お店にいる。カブトスカフェで会いましょう！！