ZOKE.NET HOME PAGE
校友会員ウェブギャラリー
 
35期 美術学科 絵画専攻 永井雅人/
留学先:ロンドアトリエ/フランス・マゼレールセンター/アムステルダムグラフィッシュアトリエ
  <校友会留学奨学生レポート
■Gallery TOP

■Friends Gallery

■留学生 Report


 

私は今、このレポートをベルギーのアントワープからオランダのアムステルダムに向かう特急列車の中で書いている。途中には、私が東京造形大学3年生の時に2003年度の交換留学生として3カ月滞在した思い出深いロッテルダムを通るだろう。

この度の校友会留学奨学生としての私の経験は、おそらくこれまでのどの留学生とも違う特殊なケースだと言えよう。なぜなら留学と言っても、私はこちらのどの美術大学にも所属していないからである。その代わりに私は複数の審査を経て、フルタイムアーティストのためのアーティストインレジデンスを3つ渡り歩いているのだ。私は既に東京造形大学を卒業し、多摩美術大学の大学院修士課程も修了している。つまり既に日本で6年間も大学で専門的に美術を学んで来ているのだ。私はこれからもうどこの美術大学で卒業資格を取得したとしても、作家として生きて行くには語学と経験以外は残念ながら何の役にも立たないだろう、という結論に思い至ってしまった。たとえ海外であったとしても大学でフルタイムの作家が学べることは限られている。まして私の専門の版画といった、経験がものを言うような職人的世界ではなおさらのことだ。こうした美術大学に所属するわけではない私を校友会が奨学生として選考して下さったことに、私は深く感謝している。過去の前例にとらわれないということは、造形大学ならではの美点だと思う。

さて私は、2008年9月にまずオーストリア第二の都市グラーツにシュタイヤーマルク州政府の招待で4カ月滞在した。このアーティストインレジデンスはまさに現代建築のビルの5階にあり、駅から徒歩5分で、各個室は60平方メートルもあった。スタジオからはユネスコの世界遺産に登録される位に大変美しいグラーツの旧市街が山々と共に見えた。

私はグラーツを拠点に、ドイツ、チェコ、ハンガリー、スロヴェニア、スイスなどといった国々を一人で旅した。特に思い出深いのは、オーストリア西の都市リンツから列車で北上してチェコとの国境を越えて、さらにバスで世界遺産の町チェスキークルムルフまではるばる行ったことである。この町はエゴン・シ−レが素描や油彩に何度も描いていて、今でもシーレの描いた場所が分かるほど中世の町並みが保存されて残っている。お伽の国のような所である。 私はグラーツに戻ってから、レジデンスのスタッフを通じて、州立ヨアネウム
現代美術館の収蔵庫に眠るシーレの作品を見せて欲しいと願い出てみた。保存上の理由から一般公開されていない作品であったのだが、私が州政府の招待作家だということで、収蔵庫で特別に手に取って見せてもらうことが出来た。オースト
リアという国はこれほどまでに芸術家に対して寛大なのである。

グラ−ツ滞在を終えた後、私はいったん日本に戻り、2009年4月に再び今度はベルギーの国立版画工房マゼレールセンターに3週間滞在し、その後5月からはアムステルダム近郊のアメルスフォールトに移るというわけである。 私は常に芸術家は30年先のことを考えて創作に当たらなければならない、と肝に命じている。30年後の自分にとって、今回の留学でオーストリアでシーレの作品を見たことや、世界遺産の町を回ったこと、様々な優れた美術品を見たり、素晴らしい作品を制作する外国の作家仲間に出会えたことが何らかの形になって実るように、これからも制作に励んでいこうと考えている。

Copyright©2005-2008,ZOKEI FRIENDS OFFICE. All rights reserved.