昨年11月、本学の諏訪学長以下卒業生と在学生が韓国カンウォン(江原)道にあるチュンチョン(春川)市で開かれた国際学生平和映画祭(ICPFF)2009に参加することになった。チュンチョンは韓流ドラマ『冬のソナタ』のロケ地で知られ、近年は多くの日本人観光客が訪れるところであるが、北朝鮮との軍事境界線に近く、米陸軍基地もあるなど軍事的にも重要な地である。それが「平和」を標榜する映画祭が開催される理由でもある。
※チュンチョンについては市のサイト(日本語) http://tour.chuncheon.go.kr/jap/ を参照のこと。
きっかけは昨年5月にソウル国際カートゥーン&アニメーション・フェスティバル(SICAF)2009の映画祭コンペティションの予選審査委員を私が務めたことによる。予選審査は一般短編アニメーション部門を担当したが、その際の審査委員長のパク・キボク先生(カンウォン大学校芸術大学映像文化学科教授)がICPFF2009のエグゼクティブ・ディレクターで、SICAF2009映画祭部門のプログラマーのキム・ソンジュさんがICPFF2009のフェスティバル・プログラマーだった。
※SICAFについては実行委のサイト(英語) http://www.sicaf.org/2010/eng/index.jsp を参照のこと。
国際学生平和映画祭(International College Peace Film Festival)は今年4回目となる学生映画祭で、これまでは実写映画を中心に地元の国立カンウォン(江原)大学校とハルリム(翰林)大学校が中心となり大学のホールなどを利用して行われていたが、今年からソウルから映画祭スタッフを招き、アニメーション部門を増設し、会場も市内のCGVを上映会場にスケールアップして開催するとのことだった。CGVは韓国のCJグループの経営する大手シネコン・チェーンで、国内70カ所、約500スクリーンを誇る。韓国初のシネコンを開業したことでも知られる。
※ICPFFについては実行委のサイト(英語) http://icpff.org/eng/html/main/ を参照のこと。
昨年の秋口にやはりSICAF事務局のスタッフだったキム・ヨンアさんからメールがあり、今ICPFFという学生映画祭の事務局で働いていて、日本の大学で映画を学んで活躍している映画監督を探しているのでアドバイスして欲しいという。
どうせ紹介するなら本学の卒業生をと考え、学生時代の作品の印象も強く、卒業後も活躍している方を何人か思い浮かべ、最終的に学長の諏訪敦彦監督、犬童一心監督、矢口史靖監督の三人の名を挙げた。いずれも実績十分で国際的にもまた韓国でも著名な監督であるが、三人が三人とも東京造形大学の出身とは映画祭のスタッフも知らなかった。映画・映像でも世評に名高い本学だが大いに広報・宣伝不足を感じる。映画祭側はとても同じ大学の卒業生とは思えないくらい作品の傾向が異なり何れ劣らず個性的なので、学生作品の特集も含めてぜひ「東京造形大学展」をやりたいと言って来た。この卒業生監督と学生作品による海外の大学の特集は、ソンジュさんが以前からやりたがっていた企画で、SICAFは学生作品に手厚いわけでもなく実現できなかったが、今回実現できるということでソンジュさんも興奮気味だった。
「東京造形大学展」は「東京造形大学の3人3色」と「東京造形大学ベスト」の二つのセクションからなり、当初は各監督の新作の韓国プレミア上映をしたいとのことだった。同時に監督の映画祭招待と観客とのQ&Aも予定された。また諏訪監督と韓国の映画監督(キム・キドク監督など)の対談の提案もあった。「東京造形大学ベスト」では過去の学生作品と在学生の作品、それぞれ映画(実写)とアニメーションのプログラムをという希望だった。
映画のセレクションに際しては映画専攻の現職教員でもある諏訪先生と過去の作品に詳しい波多野哲朗先生とかわなかのぶひろ先生に相談し、アニメーションのセレクションに関してはアニメーション専攻の木船徳光先生と森まさあき先生と相談して決めた。最終的には作者と連絡が取れなかったりで断念する作品も多く、また上映時間の関係もあって別表のようなプログラムになった。
いずれも活躍中の監督のこと、新作も既に韓国の配給が決まっていて、これは実現せず、次善の案としてデビュー作か韓国で一番人気のある作品の上映ということ落ち着いた。
犬童監督は撮影と重なり、矢口監督はシナリオ・ハンティングと重なり、訪韓はならず、それでも諏訪監督が多忙な学長業務の合間に訪問することができたのは幸いだった。諏訪監督、この場合は諏訪学長と言った方がよいかも知れないが、授業と会議の合間の2泊3日の訪韓で、帰国の日は朝暗い内にホテルを経ってソウルに戻りキンポから羽田へ飛び、午後には大学の会議に出るという強行軍だった。
その後、先に招待の決まっていた山村浩二監督が本学の卒業生だというが映画祭側の知るところとなり、3人3色展は山村監督を含めた4人4色展(Four Men Four Color)となった。
またコンペティション部門に新作の学生作品を応募して欲しいというので、プレビューとして2008年度の学部卒業制作と大学院修了制作、それにICAF(インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル)出品作品のDVDを送ったところ、2009年度大学院修了制作の坂元友介『おるすばん』、2009年度学部卒業研究の小林千草・島朋子『手紙 -tegami-』と2009年度のオープンキャンパスで制作されたグループしねかり『かべしねかり』の3作品がインコンペとなり、在学中のアニメーション専攻4年の唐沢和也君と八木辰也君が映画祭に参加した。彼らは初の国際映画祭参加で著名作家とも話をし、共に食事をしたりで相当刺激を受け、また海外の学生作品に数多く触れて大いに勉強になったようだ。映画の方も諏訪先生に推薦していただき、応募したが、作品の尺が長過ぎて映画祭の規定に合わず、一部を招待上映とするに留まったのは残念である。
最終的には4監督の内の2監督の訪韓、また上映料の問題など、諸般の事情で山村監督を除くと学生時代の作品の上映が中心となった。
映画祭は規模拡大初年度ということで、かなり混乱状態で、字幕が間に合わなかったり、ソウルからフィルムが届かなかったりで、初日は上映キャンセルが相次いだ。また上映が市中心部のCGVで、招待作家によるマスタークラス(学生向けの上映と講演)やワークショップは市周縁部のカンウォン大学校で行われ、両会場のアクセスの悪さの問題もあった。その意味で運営の不味さが際立った映画祭だが、審査委員にオダギリ・ジョー氏を招いたほか、各国からの多数の著名作家・プロデューサー等の審査員やゲスト、それに招待作品の数々、多数のコンペティション応募作品など、不慣れな国際映画祭運営の中でかなり頑張っていたと思うし、何より韓国各地から集まったボランティアスタッフの学生にはとても素晴らしいものを感じた。
元々海外の映画祭はその国その地の持ち味がある。分刻みの正確な運営を行う日本的なイベントをどこの国にでも期待しても始まらない。要は如何に異文化を楽しみ多様な背景を持った人々と交流するかである。その意味ではいつものことながら感心する韓国の人々の歓待ぶりは変わらず、同じくらい温か過ぎるオンドル(温突。韓国の床暖房)の効いたホテルに泊まり、名物のタッカルビ(鶏肉を用いた焼肉料理)も堪能した。ちょっと今回はコリアンタイムが過ぎた気もするが、いろいろとよくしてもらった私としてはあまり文句はないし、また一つ印象に残る映画祭を経験できた。ささやかながら本学の広報・宣伝もできたし、何より在学生の国際映画祭参加もできたので、結果的にたいへん満足している。
【付記】山村浩二さんがご自身のブログでこの映画祭のことを紹介していらっしゃる。もう一つの視点からのICPFF2009レポートとしてご覧いただきたい。
※山村監督のブログ「知られざるアニメーション」のサイトは http://yamamuraanimation.blog13.fc2.com/blog-category-2.html を参照のこと。
ICPFF2009 東京造形大学 出品作品
●4人4色 (1)
山村 浩二 『水棲』(1987年) 5分
山村 浩二 『博物誌』 (1985年) 2分
山村 浩二 『小夜曲』 (1985年) 4分
山村 浩二 『天体譜』 (1987年) 2分
山村 浩二 『Fig』 (2007年) 6分
山村 浩二 『こどもの形而上学』 (2007年) 5分7秒
犬童 一心・山村 浩二 『金魚の一生』 (1993年) 20分
矢口 史靖 『水栓テレビ』 (1990年) 5分
●4人4色 (2)
諏訪 敦彦 『はなされるGANG』 (1984年) 85分
●東京造形大学 (1)
沼口 雅徳 『百怪ノ行列 浅草キケン野郎〜泣くな恋の鉄砲玉〜』 (2003年) 3分3秒
坂元 友介 『焼き魚の唄』 (2004年) 4分
中田 彩郁 『舌打ち鳥が鳴いた日』 (2004年) 4分45秒
小林 真理 『シアターフリークス』 (2005年) 2分30秒
中村 英次郎 『天然バーバー』 (2005年) 5分
坂元 友介 『電信柱のお母さん』 (2005年) 10分
中田 彩郁 『聞耳「第二幕・鏡」』 (2007年) 3分19秒
金子 幸樹 『REMtv』 (2007年) 2分17秒
河内 大輔 『十打箱 ten count box』 (2003年) 1分20秒
栗原 康行・樺島 高志 『↓』 (1984年) 3分
石田 純章 『よろこびのうた』 (1992年) 3分
山口 亮子 『in two dimensions』 (2002年) 15分
宮崎 淳 『FRONTIER(フロンティア)』 (2003年) 23分
鬼束 健太郎 『墨華譚』 (2004年) 10分
大山 慶 『診察室』 (2005年) 7分
●東京造形大学 (2)
池田 将 『亀』 (2008年) 117分
吉田 光希 『症例X』 (2007年) 67分
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映画祭のインフォメーション (CGV内)

上映会場CGVがあるビル

講演会場カンウォン大学校

造形大参加者と通訳。左から山村・チョウ・諏訪・小出・バン・唐澤・八木(敬称略)
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