私の通っているチェルシーカレッジオブアートアンドデザインは、その名の通りロンドンのチェルシー地区に位置しており、校舎からはテムズ川が見渡せ、向かいには観光地としても有名な美術館テートブリテンがあり、アート系学生として生活するには絶好の環境です。私が渡英したのは2009年6月。二ヶ月半ほど大学の運営する英語コースで、修士課程に必要な論文の書き方、プレゼンテーションの仕方など、よりアカデミックな英語を勉強しました。その後、10月から現在在籍しているMA Textile Designに進学し、2010年9月に修了予定です。イギリスは大体の大学で修士課程が一年なので、自分の専門分野に精通していることが求められます。とはいっても、私のコースは建築を専攻していた人やプロダクトやイラストレーション、かつてジャーナリストだった人など一人一人のバックグラウンドは多岐にわたります。つまりテキスタイルデザインに関する知識をいかして制作にあたるというよりも、自分が学んできたことや関心事を、テキスタイルという媒体と絡めてどう表現するかということのほうが重要とされているように思います。 またこちらでは何をするにもリサーチをすることが強く求められます。自分の研究テーマを設定したら、なぜそれをしたいのか、達成するためにどのような手段で課題に望むか、などを多角的になおかつ理論的に分析することが重要とされています。そのために書籍やインターネットによるリサーチ、実際に展示や美術館に出向いて様々な作品をみたりして、自分の研究を発展させていきます。そうして考察したものが修士論文となり、さらにはリサーチの段階で自分が見たり聞いたりしたものすべてをリファレンス(参考文献)として記載する必要があります。つまり研究テーマに対する自分の考えと方針、そしてそれをサポートするだけの証拠が常に必要になってきます。大学時代、感性のおもむくままデザインをし、色を決め、布をつくっていた私にとって自分の研究を理論的かつ批判的な目線で捉えるというのが最初、正直難しくもありました。しかしリサーチをすることで、今まで知らなかった領域に目を向けることができ、それが作品制作にも影響を及ぼしていることを思うと、この経験はわたしにとってとても重要な意味を持っていると思います。また、研究テーマやプロセスを文章で説明することで、今後自分が何を発展させていくべきか、何が問題点かを明確にしていくことができます。私は今、二十世紀の鮮やかな色使いで描かれた絵画に焦点をあて、その独特の色合いと筆遣いを参考に、自分のパターンデザインをより独創的なものにしていこうと試みています。それと同時に、現代のいくつかのテキスタイルブランドにも目を向け、どのようなテキスタイルが人間の生活を豊かにしてきたのか、またデザインをする立場として、人々を楽しませることのできるテキスタイルとは何なのかを検討しているところです。 私のコースでは基本的には個人で制作、研究をすすめるのが主体になっていますが、その合間にいくつかプロジェクトやワークショップがあります。年に二回ほど中間報告の展示があり、一つは成績に関係します。毎月一回コースダイレクターと一対一のミーティングがあり、研究がどこまで進んだかと今後の展開などを話し合います。研究経過を口頭で説明するというのがいまだに難しく、伝えたいのにうまく伝わらないことにもどかしくもなりますが、ミーティングではいつも的確なアドバイスをもらうことができ、それが次の制作のモチベーションになります。またロンドンは留学生が多いので、大学側が定期的に無料の英語コースを開いたりもしていて、留学生にとってはそれが支えになっています。これから修士制作にむけて達成しなければいけない課題はまだまだありますが、この場をかりて留学生活を援助してくださった校友会の皆様に感謝するとともに、このレポートを読んでくださった方々が、留学に少しでも興味をもっていただければ光栄に思います。