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大山 慶 36期 視覚伝達・映像専攻 37期 2006年度 大学院デザイン研究領域終了
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 十代の頃、僕は特に美術や映画が大好きというタイプの人間ではありませんでした。東京都立芸術高校という美術を専門に扱う高校へ進学した動機も、最初に通っていた高校を退学する事になり、その頃好きだった女の子が「私、美大に行きたいんだ」と話していたのを思い出したためという、とても不純なものでした。芸術高校では油絵コースに在籍し、大学受験も当初は油絵科を志望、志望校を東京藝術大学一本に絞り、他大学は受験せずに浪人を繰り返していました。  何度目かの受験に失敗し、受験のための油絵を描くことに疲れてしまった僕は、友人に勧められ、息抜きのためにイメージフォーラム付属映像研究所へ通ってみることにしました。それが映像に関わる事になった最初のきっかけです。当時、この研究所がどのような教育をしているのかも、そこで扱われている『実験映画』がどういうものなのかも知らずに入学したのですが、誰かの評価を気にせず、作りたいものを作りたいように作る事が出来、初めて創作する喜びを知った気がしました。そして、そこでそれらの作品を評価して下さったのが、当時、東京造形大学でも教えられていた、かわなかのぶひろ先生、金井勝先生のお二人だったのです。この時グループ制作で作った『NAMI』は、最近になって海外映画祭で上映される機会が増えてきました。作っていた当時の自分に教えてあげたらさぞかし喜ぶことと思います。好き勝手に作ったものを褒めてもらいすっかり気を良くした僕は、途端に東京造形大学への関心が高まり翌年デザイン科映像コースを受験、ずっと何年も油絵を描いていたのに、結局、小論文によってはじめて大学入試を合格することとなりました。  大学1、2年生の頃、創作意欲だけはとてもあったのですが、映画を撮るためにはカメラ、照明、音声、出演者と、どうしても人手やお金が必要となる事が多く、友人がそれほどいなかった僕は次第に行き詰っていくようになりました。そんな時は、アニメーション、写真、版画など、自分の専門科目ではない様々な授業を選択し、逃げるようにそれらの授業に夢中になりました。この、専攻以外の授業を取る事が出来るという仕組みは僕にとって造形大の大きな魅力の一つでした。そこでの創作活動から映画作りのヒントやモチベーションをたくさん得る事が出来たのです。実際、今でも僕が使用している「クローズアップ写真のコラージュ」という独特の技法は、自分が写真の授業で撮った作品からインスピレーションを得て生み出したものでした。  3年生になる頃から、一人だけでも時間さえかければ完結させられるかもしれない、という理由でアニメーション作品を作るようになりました。昼休みや放課後にアニメーション学科の木船徳光先生を尋ね個人的に相談をさせていただいたり、アニメーション学科の講評会に混ぜていただき様々な先生方のご意見を伺ったり、他の生徒の作品を観る事で大きな刺激を受けることが出来ました。

 そのような環境でやっと完成させたアニメーション作品『ゆきどけ』なのですが、応募したコンペティションなどの結果は散々たるもの、すっかり自信をなくしてしまいました。卒業制作にあたる次作をアニメーションにするか実写作品にするか迷っていましたが、ちょうどその時、造形大の先輩でもある客員教授の山村浩二先生に作品を観ていただく機会を得、そこで頂いたアドバイスや励ましに深く感動し、卒業制作もアニメーションで頑張ってみようと決意が固まったのでした。『ゆきどけ』のリベンジのつもりで必死に作った卒業制作『診察室』は、学生CGコンテスト、BACA-JAでのグランプリ他、国内外でいくつかの賞を頂く事が出来き、さらにはカンヌ国際映画祭監督週間に選出されるなど、想像以上の評価を得る事が出来ました。  作品の事だけを考えていられる時間を延長したいがために親に頭を下げ大学院へ進学、大学院1年次にアニメーションによるオムニバス映画『Tokyo Loop』に参加し、『ゆきちゃん』を制作しました。修了制作ではインスタレーションとして断片的なアニメーションを複数制作しました。それはそれで面白いものが出来たとは思ったのですが、修了後やはりこの作品を一本の短編映画として作り直したいと思うようになり、タイミング良く愛知芸術文化センターからオリジナル映像作品制作の依頼があったため、その資金で短編アニメーション作品として『HAND SOAP』を完成させました。『HAND SOAP』はオランダアニメーション映画祭、チェコのアニメーテッドドリームでのグランプリをはじめ、国内外の映画祭で大変高い評価を得ることが出来ました。アニメーション専門の映画祭だけではなく、オーバーハウゼン国際短編映画祭、横浜映像祭など、実験的な映画を扱う映画祭でも賞をいただけた事が、実験映画から出発してアニメーション作品を作っている僕にとってはとても嬉しい事でした。  学生時代にコンペティションなどで出会った同世代の作家たちと、最近になって今度は国際映画祭で再会する事が増えて来ています。当時はライバル心剥き出しで口をきく事も少なかったのですが、今ではすっかり打ち解け、お互いに情報交換や相談をし合える、とても頼もしい味方となっています。彼らと話すうちに、短編アニメーションという分野そのものの抱える問題について考えるようになり、作品の制作だけではなく、それをどう人々に発信していくかも考えなければならないと思うようになりました。短編アニメーションは、興行として成立しにくいため映画祭以外の場で上映される事が極端に少なく、また、それ故、どこかから資金を得て制作するのがなかなか難しいというのが実情なのです。そこで昨年、同世代の作家、評論家に声をかけ、共に、自分たちの作品を販売、配給していくためのインディーズレーベル『CALF』を立ち上げました。現在、国内外からDVDの注文や上映オファーが来るようになり、上映の機会は少しずつではありますが増えてきています。  今後の目標は少しでも多くの作品を制作する事です。大学院を修了してから完成させることが出来たのは、まだ『HAND SOAP』一本だけ、それも修了制作を下敷きにしたものなので、本当に作家としての真価が問われるのはこれからだと思っています。現在、文化庁新進芸術家海外研修制度にてカナダのバンクーバーに滞在しているのですが、今後もレジデンスなどを利用しながら、色々な国に滞在し、様々な作家や作品から刺激を受け、学びながら制作が出来たらと夢見ています。


<大山 慶>

大山慶(Kei Oyama)
1978年東京生まれ。2001年イメージフォーラム付属映像研究所卒業。2005年東京造形大学卒業。卒業制作『診察室』が国内外で受賞、カンヌ国際映画祭監督週間に選出される。2006年アニメーションによるオムニバス映画『Tokyo Loop』に参加。2007年東京造形大学大学院修了。2008年愛知芸術文化センターオリジナル映像作品として制作した『HAND SOAP』がオランダ国際アニメーション映画祭グランプリ、アニメーテッドドリームグランプリ、オーバーハウゼン国際短編映画祭映画祭賞、他受賞。映画『私は猫ストーカー』(2009年)、映画『ゲゲゲの女房』(2010年)のアニメーションパートを担当。現在、文化庁新進芸術家海外研修制度にてカナダに滞在中。





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