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高倉麻世 39期 美術学科絵画専攻
Weibenses kunst hochsule Berlin/ドイツ
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 私は作家活動の中心となるテーマに「存在と記憶」を据えています。ベルリンには「存在」や「記憶」を考えさせられる歴史があったことも、ベルリンを滞在先として選んだ理由の一つでした。そして実際に滞在してみて歴史、社会に基づく現代美術の背景や多文化社会のなかで異国人、アジア人として、母国語を失い身を置くことで私自身が身を持って存在について考えさせられる時間を持てたことは、とても貴重な体験でした。

 ベルリンは第二次世界大戦、壁崩壊の歴史の影響を今日でもはっきり感じられ美術、デザイン、音楽などの多くの分野が影響を受け発展しています。
 またガストアルバイターとして受け入れられたトルコ人、ベトナム人を始め、多文化という言葉にふさわしく多国籍なひとたちが入り混じり生活しています。そんな中で次第に日本にいたときにはあまり意識しなかったアジア人としての自分、母国語以外で考え伝えていく事なかで自分の存在がもはや明確なものでは無いように感じられ不安を感じたとき初めて自分の中ではっきりとアイデンティティを意識したように感じます。
 この経験は自分に他者としての客観視を学ばせ、同じ宗教、国籍、精神性、性別でなくとも共有できる多くの記憶や他者の問題に共感できることについて気づかされました。

 私は2012年の冬ゼメスターと2013年の夏ゼメスターを旧東ベルリンの美術学校Wei?enseeKunst Hochschuleで聴講生として在籍しました。
 授業の形態は私が造形大学に在籍していた時の高橋ゼミの形と同じで週に1度クラスの中から3人づつ自分の作品のプレゼンテーションを行いそれについて皆でディスカッションをするという事が多く、月に1回教授との個人面談があります。主にディスカッションでは全体的にあくまでもプロセスより結果を重視し、より客観的に冷静に作品について考えようとする傾向が強く、コンセプトやプロセスについては教授との個人面談で2人で話すという形がとられていました。ディスカッションはドイツ語で行れ、どんなにつたないドイツ語であろうと、皆熱心に耳を傾けてくれ理解しようとしてくれます。しかし私にとっては殆ど理解することができませんでした。私自身ドイツ語は大学4年から独学で勉強していましたが、それでも生活するのに必要最低限の語学力でしかなく、大学での講義を理解することは出来ません。言葉が出来ないことを言い訳にしたくないと思いながらも、言葉の壁はこの1年間毎日感じています。

 授業は他にも作家のアトリエやギャラリーに行ったりしました。Anselm Reyle やJonas Burgertといったベルリンにアトリエを構え発表していている作家自身から作品について話を聞けたり、アトリエを見学出来たのはとても興味深かったですし、ギャラリストの方達が作品を解説しながらギャラリーを一緒に巡ったり、学校のアトリエに見学に来たりととても開かれた印象を受けました。

 ベルリン自体が非常にアートに関心が高く美術館のオープニングを始め、ギャラリーのオープニングにはいつも沢山のひとが訪れ、オープンアトリエやギャラリーウィーケンドの日はギャラリーが遅くまで開き、その地区が祭りのように夜遅くまで老若男女問わず多くの人々で賑わっていたのも私には新鮮でした。
 私は現在ベルリンの工場の跡地にアトリエを借りベルリンで知り合った方たちの縁で3月に展示をし、今年9月にも展示を予定しています。そして、今通っている大学に編入出来るか大学側と交渉しています。


 私は2008年に大学を卒業しました。大学院進学も考えましたが経済的理由と、作家として現実の社会に身をおき限られた時間のなかでどう制作を続けていけるかを試みたいと思い卒業後は制作を続けながら発表してきました。しかし現実は仕事に追われ制作との両立の厳しさを実感していました。そんな中奨学金を受けることができたのは自分にとって大きな助けでしたし、チャンスでした。

 あの大地震の日、偶然にも私は留学申込書を頂きに造形大学にいて、停電し多くの人が途方にくれる橋本を横切りアトリエ近くの健康ランドに泊まり始発を待ちました。あの地震の日に、一番に頭をよぎったのは家族の安否でした。ひとはこんなにも簡単にいつでも一瞬に消えてしまえるということがこんなにも明確に感じられたことはありませんでした。その後原発事故の恐怖のなか家族や友人を残し自分だけ海外に出ていくことに迷いましたし負い目を感じていました。
 しかしそんななか理解し、応援してくださった家族、友人そしてこのようなチャンスを頂けた、教授陣、校友会の皆様に感謝しております。有り難うございました。

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