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協賛団体展覧会レポート 2012年波浮港国際現代美術展
2回目の「島の国際現代美術展」
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 船はビルの水路をぬうように大海へ進み、やがて緑多き島に着きます。19世紀中頃までは海そのものが他国との距離であり、物も情報も海からやってくるものでした。しかし、今や情報は世界中のどこからでも瞬時にめぐり、交通網の発達は人や物を遠くから短時間で運ぶ時代となりました。

 この島々は大都市東京にありながらインフラの狭間に置かれ、観光客も減り、過疎で不便なところになっています。しかし、この地には独自の風土があり、文化があり、日々の生活があります。壮大な自然の産物である美しいが、時に火を吹く山があります。


制作する佐藤淳
 残念ながら島の人々と自然が育んできた有形無形の文化や習慣は風化しつつあります。それでも此処では、そこかしこに過去が顔を出し懐かしさを感じさせてくれます。その微かに残る文化の伝承や保全も危うさを感じざるを得ません。

 このような環境で昨年に続き、2回目の国際現代美術展を開催しました。
 参加作家は、ニュージランド・オーストラリア・韓国など海外から8名(内5名来島)、日本作家16名でした。
 どの作家も、それぞれの日常から隔たりのある地での展開を模索することになります。


設置する、菅原史也
 作家の立場からすれば、あらかじめ計算のできる専門的な展示空間ではなく、オーディエンスも普段とは異なります。素材・道具なども限られた条件の中での制作や展示は難しくもあり、魅力的でもあります。共通しているのは、鮮明となる差異の中から「表現すること」への根源的な意味を問われるということです。

 もう一つは、島と東京の関係は、日本と世界との関係に似ているということです。此処で東京の島々の置かれている現状を思考すること、今後のあるべき姿を模索することは日本が世界と対峙することと重なって見えてきます。


佐々木愛美作品
 今年参加した作家は、様々なアプローチをしました。李容旭は、地域を代表する椿の花や生産物の椿油などを切り口に、ドキュメントの映像を発表。小林ナオコ・竪川可奈は花びらをそれぞれ象徴的に扱いました。島の生活でかつて苦労した「水」をテーマに展開した、ヒグマ春夫・黛真美子。物流を段ボールで表現した高島芳幸。そのほかにも、エサシトモコは、土産物の「あんこ人形」をコミュニケーションアートの素材として活用し、尾形勝義は天草を使いました。今の問題に迫る作品として原発関連作品や普遍的な課題を取り上げた作家たち(山本伸樹・金景秀・スーハイデドゥ)。ほかの作家すべてが各自の世界を展開していました。

 また、今年の特徴としては16日間の展示期間中に制作をする作家が複数いたことです。その中の一人、アリ・ブランウェルは、旧小学校の廊下壁面と天井を支持体にして、黒いガムテープで作品を展開していきました。最終日に完成し、次の日には間髪入れず撤収作業を行いました。

 現代美術家が「今」を意識し、未来に繋げる提案をするとき、そこには「過去」からの繋がりが必要なのかもしれません。その意味では、東京の島々は条件に合います。作為的に保全されていない空間は、多くの示唆を与えてくれるかもしれません。そして、自身の創作の根源的な意義を見出そうとしているかのような作家の姿勢は、触れ合う地域の人々にも影響を与えようとしています。

 日本の多くの伝統的芸術だけでなく、現代美術もサブカルチャーも海外からの評価によりその価値に気が付くことは多々あります。これは、島でも同じで私たちの立場は地域活性化のためとか、観光客誘致の一助としてとか、何かのための美術展を標榜する必要はなく、淡々と自分たちのスタンスで実施することが、自然と地域文化の見直しに繋がっていくと思います。島の文化が形成された時間を思い浮かべることができるなら、その時間の流れに身を委ねるのも一考です。


数時間で消えた高田芳樹の造形
『東京の島々結ぶアート航路』とは、物理的な航路をさすのではなく、文化の流れや意思の流れを共有することなのです。船乗りは、世界からの旅人であり、島国の我々自身なのです。船は出帆しました。新たに新島に寄港しました。小笠原など多くの島で世界児童画の展示や寄贈ができました。今後とも、しばらくは航路を模索しながらの旅が続きます。

 皆様の乗船を期待しつつ報告とさせていただきます。

6期 美術学科絵画  高田 芳樹
展覧会概要
【展覧会名】
2012年波浮港国際現代美術展

【会期】
8月18日〜31日(公開制作期間)
9月1日〜16日(展示期間)

【場所】
東京都大島町波浮港・新島本村ほか

【主催】
2012年波浮港国際現代美術展実行委員

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